Kuniko Notani
bag craftsman

Pochette using piece stitching

 駒合わせ縫いを使ったポシェット

はじめに

Thoughts and skills passed down from the founder of Yoshida Kaban

Kuniko Notani, a leather hand-sewing artisan and bag designer, is the second daughter of Yoshida Kichizo, the founder of one of Japan's leading bag manufacturers, Yoshida Kaban. Her passion for technology, born from her career as a hat designer, continues to be the driving force behind her earnest craftsmanship.

Currently, in order to spread the charm of handmade leather craft, she also holds a school at her atelier in Imado, Taito-ku, Tokyo, and teaches the technique as an instructor herself. He also gives hand-sewing demonstrations at the Porter Omotesando workshop on an irregular basis, and is working with the wish left by Mr. Yoshida before his death, "to spread the wonder and joy of leather hand-sewing to as many people as possible.

We visited Ms. Notani's atelier in Okuasakusa to hear about the fun and difficulty of hand-sewing and her thoughts on her activities. In the latter half of the interview, we will learn how to make a pochette using the "koma-awase stitch," a technique indispensable for making a three-dimensional bag like a trunk.

インタビュー

立体的な鞄づくりに欠かせない「駒合わせ縫い」

鞄づくりは父から学びたかった

野谷さんはもともと帽子のデザイナーとしても活躍されていたと伺いましたが、なぜレザークラフトの道へ進んだのでしょうか?

帽子はファッションのなかでもとても華やかなアイテムで、どうしても帽子を作りたかったわたしは、無理を言って学校に通わせてもらったんです。おかげで帽子デザイナーとしてウェディングや広告など素敵な仕事に携わることができました。その頃から、いつか帽子とセットで鞄をデザインし、作ってみたいという想いを抱いていたんです。子育てが落ち着いて、キャリアを再開するタイミングで父に相談したところ、鞄づくりの研修に参加してみないかと誘われたのがきっかけです。「研修が終わったら、わたしが教える」と言われて、背中を押されたような気がします。帽子は自分でどうにでもなるけれど、鞄はやっぱり父に教えてもらい、技術を残していきたいという想いもあり、そこから鞄づくりを学びました。今回の作り方をご紹介させていただいたポシェットは、長男が生まれた時に父が作ってくれた思い出のものと同じ形のポシェットです。そして、初めて駒合わせ縫いを父から教えてもらった時の教材もこの形のポシェットでした。私にとって思い入れのある鞄です。

教わるのではなく、伝わるものもある

鞄づくりではどのようなことを教えてもらったのでしょうか?印象的だったことなどはありますか?

鞄づくりを教えてもらうことで、父とはたくさんの時間を過ごすことができました。技術に関しては「ここは大事なところだから、よく見ていなさい」といった感じで、教わると言うよりも見て覚える感じでした。あれこれ細かく指導するのではなく、わたしの作ったものを題材にして、どうすればもっと良くなるかを一緒に考えてくれるような教え方です。そして、鞄づくりに対する想いや姿勢など、仕事に対する気持ちを間近で感じることができたのは幸せなことです。いつも鞄を縫うときはきちんとネクタイを締めていたのを覚えています。また、父は教えるだけでなく、よく聞いてもくれました。わたしが洋裁学校で学んだことや、わたしたちの世代がどんなことに関心を持っているかなど、さまざまなことに興味を持っていたのが印象的でした。戦争で捕虜になった話や革鞣しの技術についてなど、仕事のこと以外にもたくさんの話を聞きました。

針二本でなんでもつくれる技術

吉蔵さんの技術を間近で見ていて、凄いと感じることはどのようなところですか?

アトリエの一階にある「𠮷田吉蔵記念館」にも置いてありますが、手縫いでトランクを作っているときはその技に驚きました。レザーの表情が美しく、大切なものをしまって旅をするのに相応しい風格を備えたトランクです。縫い目も均一で、まさに「一糸乱れぬ」美しさです。平面的な造形だけでなく、立体的で頑丈なトランクをたった二本の針で作り上げたのかと思うと、本当に凄いなと感動しました。そのとき父が駆使していたのが、今回お教えする「駒合わせ縫い」という技術なんです。わたしはいまでも「ポーター 表参道」の工房でコインケースを縫っていますが、小さなコインケースの中にカバン作りの多くの要素が詰まっています。もちろん、駒合わせ縫いも用いるのですが、何個同じものを作り続けていても難しいものです。小さなものでも大変なのですから、改めて父の凄さを実感します。しかも、本人はそれを事もなげにやってのけるのですから、職人としても凄い人だったのだと思います。

人が使って完成する道具

いま、スクールで生徒さんにも教えていらっしゃいますが、手縫いの革製品を作るうえで大切なことはなんでしょうか。

帽子や鞄というのは人の身体に密接に関わる道具です。持つ人に合わせて少しずつ馴染んでいくわけですから、できあがりがゴールではないと思っています。使ってもらうことではじめて完成していく道具ともいえますね。極端にいえば「中に入れたものが落ちない」というのが鞄の最低限の機能だとお話をしています。そのために大切なことはやはり「基本の技術」だと思います。「こんなものを作りたい」という想像を実現するために、世の中はどんどん進歩していきます。これからも新しい考え方や技術が生まれてくると思いますが、それでももとを辿れば基礎的な技術に辿り着くものです。わたしも何度も同じことを教えていながら、まだ新しい発見に気付くことがよくあります。生徒さんも技術が上達してくると、上質な革を使ったシンプルなデザインを求めるようになる傾向がありますが、ものづくりを通して「洗練される」というのがどういうことか、みなさん自然に学ぶのかもしれません。

ぜひ、良いものを知って欲しい

コロナ禍でものづくりをするひとが増えたと聞きます。なにかアドバイスはありますか?

道具や素材の良さを感じることは、ものを作るうえでとても大切なことだと思います。とくに、今は良い道具を作れる職人さんが減ってしまっています。わたしは父が使っていた「目打ち」をメンテナンスしながら使っていますが、そういう道具のメンテナンスの職人さんも減っています。仕事を頼まなければ、素晴らしい技術や文化も途絶えていくのでしょう。革の素材も、良い革とはどういうものか、何が違うのか知って欲しいと思います。良いものはそれなりに値段もしますが、使ってみることでなぜ高いのか理解できます。いろいろと試して違いを知るのは良い勉強になります。せっかく手を使ってものを作るんですから、良い道具を使って、良い革に触れることの喜びを大切にして欲しいです。そして、良いものを作れるようになって欲しい。基本的な技術をきちんと習得しながら、ひとつひとつ丁寧に作っていけば必ず上手になります。そうしてレザークラフトの楽しさが広がり、文化が残っていったら嬉しいですね。これからも、デザインや技術など新しいことにどんどん挑戦しながら、鞄作りを楽しんでいきたいと考えています。

 

インタビュー:Kentaro Iida
写真:Tara Kawano

レシピ

Pochette using piece stitchingの作り方

型紙ダウンロード〔A3サイズ〕

※A3実寸サイズです。A3用紙に拡大縮小せずに印刷してください。


STEP.1

型紙に合わせて革を裁断します。

STEP.2

「トコノール」を木綿の布を使って、トコ(革の裏側)面とコバ(革の切り口)に丁寧にすり込みます。

<達人のポイントアドバイス>
堅い帆布だと傷になりやすく、柔らかな木綿の布の方が擦り込むのに適しています。また、銀面(革の表面)にトコノールが付着するとシミになることがあるのではみ出ないように気をつけましょう。

STEP.3

マチになる駒のパーツA-1、A-2を貼り合わせます。トコ面にサイビノール100(ボンド)を塗り、A-1を外側にして中心で合わせ少し湾曲させながらしっかりと貼り合わせる。貼り合わせた2ヶ所のはみ出た部分を「革包丁」などで切り落とし、ヤスリ掛けをして磨きます。

STEP.4

型紙を参照し各パーツに「ネジ捻」などの縫い線を引く道具を使って捻(線)を引きます。

<達人のポイントアドバイス>
道具の先端を縫い線の幅に開き、刃の低い方を銀面(革の表面)にのせ、高い方をコバ(革の側面)にぴったりと密着させ手前に引く。刃の段差を利用して、短い方がしっかり革を噛むように引くのがコツです。パーツによって捻を引く幅が違うので、慎重に引きましょう。

STEP.5

型紙についている貼り位置の印をつけ、そこをヤスリで荒らしてから各パーツ(D〜G)を貼り付けます。

STEP.6

「菱目打ち」を使い、すべてのパーツ(A~G)のネンを引いた場所に縫い穴をあけていきます。「駒合わせ」をするマチの部分(パーツA)は貫通させず、半分より少し深いところまで刺さったら止めて抜きます。カーブしている箇所は二本目打ちを使います。

<達人のポイントアドバイス>
縫い穴を開け進めるときは最後の穴に目打ちをかけ、等間隔になるように穴をあけていきましょう。

STEP.7

D〜Gのパーツをそれぞれ「平縫い」で縫っていきます。

STEP.8

D〜Gのパーツが縫えたら、いよいよ「駒合わせ」です。コマをボンドで胴体(BとC)に貼り合わせます。写真のようにパーツAの両側のコバをパーツBとCがはさみこむように、サイビノールで貼り合わせます。

<達人のポイントアドバイス>
この際に、駒をパーツBとCのごくわずか内側にずらすように貼ります。こうすることで縫い上がった時に、パーツBとCのコバとパーツAの銀面がそろいます。

STEP.9

二本の糸の長さを揃えてしっかりと縫いはじめます。「菱キリ」を使って針が通るように道筋を作ります。片方の糸が通っているところは「丸キリ」で糸の道筋を作り、穴をあけながら縫っていきます。

駒合わせ縫いを動画でみる

<達人のポイントアドバイス>
片手でキリを持ったまま針を扱えるようになるとスムーズに縫えます。菱キリは糸を切ってしまうため、糸が通っている穴は必ず丸切りを使います。

STEP.10

カーブに沿って縫っていくと針穴がズレて斜めになってきます。ズレがひどくなってきたら、進んでしまっている方の針をもう一度同じ穴に通して帳尻を合わせます。

STEP.11

最後まで縫いきったら、3目縫い戻してボンドで糸を留めます。

糸留めを動画でみる

<達人のポイントアドバイス>
動画で紹介した糸留めのやり方は、見た目が綺麗でしっかりと留まるので、コマなど負担がかかる部分の糸留めに便利です。

STEP.12

最後に、ストラップ or ショルダーベルトを留める「ギボシ」を付けて、フラップに折り癖を付けたら完成です!


型紙ダウンロード〔A3サイズ〕

※A3実寸サイズです。A3用紙に拡大縮小せずに印刷してください。

作者プロフィール

Kuniko Notani

Born in Kanda, Tokyo in 1942. After working as a hat designer and creator, he learned the know-how of hand-sewn bag making from his father, the founder of a long-established bag manufacturer, and started his career as a bag craftsman. In March 2011, he opened a basic course for beginners at his atelier in Asakusa.